人事制度についてわかりやすく解説

人事制度とは

人事制度とは、会社が人材を管理するための仕組み全般のことを言います。広く捉えると働き方に関する仕組みなども含まれます。しかし、一般的には等級や評価、賃金など従業員の処遇を決定する仕組みに絞って人事制度という言葉を使うことが多いです。

従業員を資源と見て、その資源を活かすための制度です。要するに、従業員のもつ能力を最大限に発揮してもらうにはどのようにマネジメントすればよいかということです。

人事制度の目的

経営者が人事制度を導入する一番の目的は、給与を決めるための仕組みを作りたいということです。中小企業の経営者は、給与の決め方で悩んでいる人が多いので、その解決策として人事制度を導入するというのは、もっともだと思います。
また、人事制度の目的が給与を決めることだとすると、そのために必ず導入しなければならないものがあります。それが評価制度です。別の言い方をすれば、給与を決めるためには評価をしなければならないということです。

しかし、ここに大きな問題点があります。それは、給与を決めるための手段であった評価制度が、いつの間にか目的になってしまい、人事制度といえば、人事評価をすることと誤解されてしまうことです。

人事制度の本来の目的とは、従業員が「やる気」を持って働き、仕事で成果を出し続け、会社の「業績がアップ」する仕組みを作ることです。つまり、人事制度を導入して、どんなに公平公正な評価ができ、給与を適正に決めることができたとしても、会社の業績アップにつながらない制度であれば、まったく意味がないということになります。

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人事制度を構成する3つの制度

等級制度とは

能力や職務、役割などから、「1等級」「2等級」…といったランクで序列化する制度を言います。従業員の成長ステップを示すとともに従業員をその能力に応じた等級に格付けする制度です。この制度の真の目的は「従業員の能力向上に必要な職務知識等」を具体的に明示し、従業員が自分にはどのような職務知識等が必要なのかを知ることが出来るようにすることです。単に従業員を段階に分けるのが目的ではありません。

評価制度とは

一定期間の仕事の成果や取り組む姿勢を評価する制度を言います。査定や人事考課とも呼ばれています。従業員の成果・業績といった定量的な目標と共に、行動指針の体現度合いや成長度合いといった定性的な目標も設定して評価することが多いです。一方的な点数をつける機会ではなく、しっかり「できたこと」「できなかったこと」「次に期待すること」を会社と従業員との間ですり合わせる機会にすることで、成長のサイクルを効果的に回していくことができます。

賃金制度とは

等級制度や評価制度に基づいて、給与や賞与などの金額を決める制度を言います。給与や賞与といった「金銭的な報酬」に反映させる方法が一般的ですが、「非金銭的な報酬」もあります。「非金銭的な報酬」は次の仕事や役割、学習機会の提供などを指します。どのような仕事や行動に対して、どのような形態で評価し報酬を与えるかで、会社ごとの特徴や色を従業員と認識を合わせることができます。

人事制度を導入するメリットとデメリット

メリット

1.目標を設定し、成長することでキャリア形成につながる

人事評価では各自の目標や、将来のキャリア、望む姿を話し合うことになります。
社内においても各従業員の目標や希望を把握することで、会社の目標など、事業に合わせて適切な人材配置が可能になります。

2.会社に対する従業員の期待値がアップする

人事評価が適正に行われ、その結果、昇進できることが分かると、会社に対する従業員の期待値は上がります。「もっと貢献したい」「昇進してできることを増やしたい」と考える従業員も出てきます。

3.仕事の生産性がアップする

成果に対し、それに見合った待遇や給料を定めると、より積極的に仕事に取り組むことが期待されます。各従業員の仕事の生産性だけでなく、会社としての生産性の向上も見込まれます。

4.それぞれの従業員のスキルが掴める

人事評価をすることにより、目標としていた内容と現状を比較することができます。従業員の現状を把握することは、従業員が有しているスキルを把握することにもつながります。

デメリット

1.手間がかかる・人事評価のスキルが必要

まず第一に、人事評価制度を導入するための手間がかかります。評価の指標自体が不明瞭であれば、人事評価制度の効用は得られません。明確な目標設定と人事評価者のスキルが絶対条件とされます。

2.評価が低い従業員にとっては不満要素となる

どんなに公平に評価したとしても、評価をするということは、序列ができてしまいます。頑張って貢献してくれる従業員の評価は高くなり、そうでない従業員は低くなります。
評価が低い従業員にとっては、評価が適切であったとしても、不満要素となります。今まで明確にしていなかったことで、一部の従業員から不満が出ることを想定しておく必要があります。

3.全員が満足する評価制度にすることは難しい

人が人を評価する制度では、どうしても全員の納得を得ることは難しいです。上司と部下の相性であったり、伸びている事業や停滞している事業もあるため、どの部署に所属しているかによっても評価が異なることがあります。
日頃から評価制度についての目的や会社の考えを伝え、会社と従業員との信頼関係を構築できるように努める必要があります。

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人事制度を導入するときのポイント

中小企業の実情を考慮して人事制度を策定する必要があるのは言うまでもありません。給与体系がない、人事担当者が居ない、評価できる管理者がいない、従業員育成のしくみがない、制度の導入・運営ができない、などの実情を知った上での人事制度づくりと導入が必要です。

そのために「60点・導入優先主義」という考え方をおすすめします。つまり、完全無欠の人事制度を狙うのではなく、細かな点では少しの不足点があっても60点でもいいからその会社に適した制度を策定してしまうことです。そして、問題なく導入できるようにして運用を開始することが大切だと考えています。

人事制度の導入は「従業員のやる気を出してもらうこと」が本筋です。従業員の不満を作り出したり、不和を起こすことが目的ではありません。理論的に正しいことが必ずしも良いことではないのです。ただし、基本的な骨組みでは間違わないようにしなければなりません。

そこで、最低限必要な制度づくり、現場で運用できるしくみ、誰でも評価できる、管理者が育つ、従業員育成につながる、そして経営課題に直結させる人事制度が必要となります。これらに基づく人事制度は「自社に適した制度」の導入を意味することとなります。

よくある人事評価エラー

1.ハロー効果

ハロー(halo)は英語で「後光」を意味します。強い後光がさすと、眩しさに目がくらんで、光の前にあるものがよく見えなくなることがあります。これにちなんで、人事評価の際、その人材の優れた(劣った)一面に影響され、他の面についても同様に高く(低く)評価してしまう傾向があります。ハロー効果には次の2つの類型があるといわれています。

【全体的印象ハロー効果】
これは、部下の人物・行動の全体から受ける印象や、いったん自分の頭の中でつくりあげてしまった部下の全体評価を先入観として持ってしまい、この全体的印象が強いために、無意識のうちに、部分毎の特性の評価を歪めてしまうことです。

【部分的印象ハロー効果】
これは、部下の何か1つまたはいくつかの特性に際立って優れた点があり、これに対して「優秀である」「高度である」と強い印象を持ってしまうと、他に劣っている特性があっても、全体として「優秀」「高度」であると歪んだ評価をしてしまう傾向を言います。

2.寛大化傾向

寛大化傾向は、全体的に甘い評価をしてしまう傾向のことです。部下によく思われたいという気持ちが強い場合や、部下の仕事をしっかり把握していない場合いに起こりがちな現象です。例えば、部下によく思われたいために甘い評価をしてしまうことが該当します。

3.中心化傾向

無難な評価で済ませることにより、評価結果が中間値に集中し、人材の特徴や優劣をはっきり把握できなくなる傾向があります。例えば、評価期間中の部下の仕事ぶりや成果には、良い時も悪い時もあり、全体をならせば大体普通だろうと大ざっぱに考えて評価をつける場合が該当します。

4.論理誤差

論理誤差とは、事実を確認しないで、1つのことから関連付けて推論で評価してしまうことです。論理的誤差は具体的には、次の2つの傾向に分けることができます。

【属人的誤差】
勤続年数や経験年数、先輩・後輩で、長いほうが優れていると短絡的に判断してしまう傾向です。例えば、Aさんはこの仕事に就いてもう5年も経過しているから、“熟練度”が高いと判断する場合です。
【論理的誤差】
一見論理的に関係のありそうな評価項目を相互に結びつけて評価を合わせてしまう傾向です。例えば、Aさんは大学を出て専門知識も豊富だから判断力が高いし、その仮説は正しいはずだと判断する場合です。

5.対比誤差

対比誤差とは、評価者が自分の能力、特性と反対の方向に評価してしまうことです。評価者自身と比較し、自分の得手の事項については厳しく、不得手な事項については甘くみてしまう、あるいは同程度の人物と比較して評価してしまう現象です。例えば、コミュニケーション能力の高い評価者が、部下のコミュニケーション能力を実態よりも低く評価することが該当します。

6.期末効果

評価を行う直前の出来事(失敗や成功等)が強烈な印象として残ってしまい、全体の評価に影響しがちな傾向があります。例えば、つい最近の大失敗が、過去の成功事例を無視してマイナス評価してしまう場合が該当します。

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人事制度を設計する流れ

主として5段階の流れとなっています。

STEP1:等級制度設計(等級定義の編集/昇格降格要件の設定)

会社に最適な等級数を決定して、各等級に対して会社が求める役割や能力を定義します。また、昇格や降格の決定に関するルールを決定します。

STEP2:評価制度設計(評価項目の選択/評価着眼点の編集/評価ルールの設定)

職種職位ごとに職務評価(各職種に必要な専門職務)と行動評価(各階層に必要な行動要件)の評価項目を選択して評価着眼点を編集することで評価シートを設計します。
また、評価スケジュールや評価ランクの設定、評価者、評価面談などの評価ルールを決定します。

STEP3:賃金制度設計(基本給表の作成/昇給賞与ルールの設定)

諸手当の統廃合や支給基準を見直した上で、各等級の初号金額や昇給ピッチ額を設定して基本給表を設計します。
また、昇給ルールや賞与ルールも設定します。

STEP4:制度検証(賃金シミュレーションの実施/モデル賃金の検証)

新たな手当や基本給表にもとづき在籍従業員を対象とした賃金明細の切り替え、昇給による人件費推移の検証、総額管理をベースとした賞与ルールへの切り替えシミュレーションを行います。
また、新しい手当や基本給表をもとにモデル賃金を作成して検証を行います。

STEP5:制度資料の完成(人事制度概要説明書の作成/各種資料類の完成)

これまでに設計してきた等級制度・評価制度・賃金制度に関する決定事項をとりまとめて人事制度概要説明書を作成し、人事資料一式(概要説明書/評価シート関連/賃金資料)を完成させます。

人事制度を設計するときの注意点

1.明確な評価基準を提示する

評価を行うにあたり、評価基準を明確に設定し、それを従業員にきちんと提示する必要があります。基準が従業員に伝わっていない状態で評価を行うと、従業員は評価に対して納得ができず、「成果に対して適切に評価されてない」と不満を抱く原因になります。会社に対する信頼の喪失にも繋がるため、「評価基準の明確化・共有」はきちんと行う必要があります。

2.「公正で客観的な評価」を行う

人事評価を行う上で、評価者が「私情を挟まず、客観的かつ公正に評価を行う」ことは非常に重要なポイントです。
評価者は人事評価エラーに注意して評価を行う必要があります。しかし、人間誰しも感情が入ってしまうことはあるため、「評価者に対して、人事評価エラーを起こさないよう事前に評価者研修を行ったり、最終の評価結果を人事が総点検するなどして、会社全体で公正さを保つ工夫を行うことが大切です。

3.フィードバックを行う

人事評価というと、「評価」そのものに焦点が当たりがちですが、フィードバックもとても重要な役割を担っています。フィードバックをすることで、今後の課題が浮き彫りになり評価者と被評価者の共通認識として明確化され、今後目指すべき方向もクリアになります。適切なフィードバックがなければ、課題が曖昧のまま業務を継続することとなり、従業員の成長を期待することは難しくなります。
忙しい時期におろそかになるなど、フィードバックがきちんと取り入れられていないケースが少なくないですが、会社の成長は従業員の成長によってもたらされるため、きちんと行うようにしなければなりません。

まとめ

人事制度は難しいと思われがちですが、決して難しいものではありません。ただ、いろいろな理論、説、方式がありますので、何が本当なのか分からない、どのように構築すればよいのか分からない、またさらに難しい制度の方が良く見えてしまう、などの迷いが出てきます。
しかし、制度を運用する中小企業はほとんどが始めての人事制度です。難しいことや高度なことは必要ないので、シンプルな制度を導入することが大切だと思います。

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投稿者プロフィール

石田厳志
石田厳志
木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。