第8回:行動評価制度の設計 (2) – 評価要素と手続き
1.はじめに
さて、前回までで、プロジェクトを進める心構えを確認し、なぜ今、この新しい人事制度が必要なのか、その「フレームワーク」をじっくり考えました。そして、社員の「成長ステップ」を示す「資格等級制度」の骨子を固めたところです。社員一人ひとりの能力レベルを明確にし、将来の目標を示す、この資格等級制度こそが、皆さんの会社を「人を育てる会社」にするための第一歩なんです。
しかし、能力レベルが分かっただけでは、まだ人事制度としては不十分です。社員が日々の仕事で、どのような行動を取り、どれだけ努力したのか、そしてその結果としてどのような成果を出したのか、これをきちんと見て、評価してあげることが不可欠です。単に能力があるだけではなく、その能力をどう発揮したのか、ここが非常に重要なのです。
そこで今回から、この「行動評価制度」について、具体的な設計に入っていきます。このプロジェクトでは、これが第8回目の作業ということになります。この行動評価制度は、社員全員の業務遂行を評価する制度です。そして、その最大の目的は、「社員を育てること」にあります。
2.評価制度の目的を改めて考える
評価と聞くと、どんなイメージをお持ちでしょうか? もしかしたら、「査定」とか「給料を決めるためのもの」というイメージが強いかもしれません。確かに、適切な評価に基づいて給与額や賞与額を決定することは、避けて通れない経営課題です。社員の働く上での最大の関心事は給与にあると言っても過言ではありませんから、評価結果が給与に連動することは、社員のモチベーションにとっても非常に大きな要素となります。
しかし、給与決定のためだけに評価制度を作るのであれば、それは従来の「成果主義」や「業績主義」と呼ばれるものと変わりません。そして、従来の成果主義は「脅しの人事制度」になりがちだと私は考えています。一時的に成果が出たとしても、人は脅されて能力を永続的に発揮するものではありません。
私が皆さんと目指したいのは、これまでの「人は脅さないと働かない」「お金だけが人を働かせる唯一の手段だ」といった考え方から脱却し、社員を人として扱い、人の持つ能力を引き出し、発揮してもらうための評価制度です。つまり、社員が育ち、働きがいを感じてくれるような制度を作ることなのです。
評価制度は、単に社員の「欠点探し」に使われるようなものであってはなりません。そうではなく、社員一人ひとりの行動や能力の「弱点を明確にして、それを改善する」、そして「より高い能力を身につけ、より良い社員に育ってもらう」ための重要な手段なのです。この目的を、運用に関わる皆さん全員がしっかりと理解することが、この制度を成功させるための大前提となります。
3.評価要素を何にするか?
では、具体的に何を評価すれば、「社員を育てる」評価になるのでしょうか? 行動評価制度で評価する主な要素は、大きく分けてこの3つです。
- 成果(仕事の成果)
- 勤務態度
- 能力
この3つの要素で、社員の職務遂行能力とその発揮度、そして日常の勤務態度を把握します。
ただし、この「成果」「勤務態度」「能力」というのは、あくまで大きな括りです。では、具体的に「成果」の何を評価するのか、「勤務態度」の何を評価するのか、「能力」の何を評価するのか。ここを明確にしなければ、評価する人によって基準がバラバラになってしまい、公正公平な評価はできません。
ここで重要になるのが、それぞれの評価要素について、「期待する社員像」を具体的に描き、「どのような行動や努力が望ましいのか」を明確にすることです。そして、それを「評価の着眼点」として具体的に定めていく作業です。
「期待する社員像」や「着眼点」を考える際には、「性格」や「頭が良い」といった抽象的なものは評価要素になりません。評価するのは、「具体的な行動や努力」であり、「目で見える行動や能力」です。例えば、「朝は始業時間の5分前には機械をスタートさせている」とか、「売上の入金チェックができる」、あるいは「伝票の間違いを発見できる」といった、誰が見ても「できた」「できなかった」が判断できるような表現で定義していく必要があります。できれば数字で表現できると、さらに客観性が高まります。
また、「~しない」という否定的な表現ではなく、「~する」という肯定的な表現を使うこともポイントです。「ミスをしない」ではなく、「提出前に再確認をする」といったイメージですね。
この「着眼点」は、単に評価者が評価しやすくするためだけにあるのではありません。社員にとっても、「どんな行動や能力が良い評価につながるか」が明確になることで、日々の業務における「能力向上の目標」となり、「速く成長していただく」ことにつながるのです。
さらに、この評価要素や着眼点の内容は、社員の等級によって変える必要があります。例えば、1・2級の若い社員には、まず日々の基本的な行動や勤務態度に重点を置きます。きちんと報告・連絡・相談ができるか、決められた規律を守れるか、周りの社員と協調できるか、といった、社会人としての基礎的な行動ですね。
一方、3・4級の中堅社員やリーダー層には、日常の行動に加えて、業績向上に繋がる重要な行動や、部下の育成、リーダーシップといった要素が重要になります。
そして、5・6級以上の管理職層には、さらに上級管理者として必要な行動、戦略的な内容、管理・経営に必要な行動、計画・管理・統制といった要素に重点が置かれます。
このように、等級が上がるにつれて、評価の重点が「個人的な基本行動」から「組織全体の成果」「部下育成」「戦略的な視点」へと移っていくわけです。
この着眼点の作成は、皆さんの会社の各部署で検討して決めることが原則です。なぜなら、各部署の仕事内容や求められる能力は異なるからです。部署ごとに納得のいく着眼点を決めることで、部署全体のレベルアップにも繋がります。プロジェクトメンバーを中心に、ぜひ現場の意見も聞きながら進めていってください。
4.評価の時期、回数、評価期間
評価をいつ、どれくらいの頻度で行うのかも重要な決定事項です。新しい人事制度における評価には、大きく分けて2つの種類があります。
- 定期評価:昇給や昇格を目的とした評価です。
- 賞与評価:賞与の決定を目的とした評価です。
定期評価は原則として年1回行います。評価の実施時期は毎年4月とすることが多いでしょう。そして、その評価対象期間は、前年の4月1日から今年の3月31日までの1年間とします。この期間における社員の行動や成果、能力の発揮度を評価するわけです。
一方、賞与評価は年2回行います。夏期賞与のための評価は毎年6月に実施し、対象期間は前年10月から当年3月までとなります。冬期賞与のための評価は毎年11月に実施し、対象期間は当年4月から9月までとなります。給与の支払日や計算事務に必要な期間を考慮して、この時期と対象期間を決定します。
このように、評価の目的(昇給・昇格なのか、賞与なのか)に応じて、評価の時期と対象期間を明確に定めることが、社員の納得感を得る上でも非常に大切です。
5.評価はどのように進めるか? – 評価の手順
評価の時期と評価する内容が決まったら、次は評価の手順を決めます。つまり、誰がどのように評価を進めていくのか、ということです。
標準的な評価の手順は、次の4つのステップで進めます。
①一次評価(まず直属の上司が行う)
- 社員の過去1年間の業務記録などを参照しながら、先に定めた評価要素や着眼点に沿って、直属の上司が部下を評価します。
- 一次評価者は、概ね3~6人程度の部下を評価するのが目安です。
- 社長が一般社員の一次評価を行うことは、管理者が育たなくなるため、できるだけ避けてください。管理職が責任を持って部下を評価・育成する体制を作ることが重要です。
- 評価の着眼点表などを参考に、客観的な事実に基づいて評価することを心がけます。
②二次評価(部門の長など、上位の管理者が行う)
- 二次評価者は、一次評価者である直属の上司の評価結果をさらに検討します。
- 他部門との調整を行ったり、直属の上司からは見えにくい社員さんの特徴などを加味して、二次評価として最終的な評価案を作成します。
- 二次評価者が一次評価者の評価と著しい差がある場合、一次評価者の意見を聞き、必要によっては評価を修正することができます。二次評価が一次評価と異なる場合は、必ず一次評価者の同意が必要です。評価者同士でしっかりとコミュニケーションを取り、評価基準の統一を図ることが大切です。
③調整・決定(役員会などで最終決定)
- 二次評価まで進んだ評価案を、役員会などで全体的な調整を行い、最終的な評価結果を決定します。
- ここで、部門間での評価基準のズレを調整したり、全社的な視点から最終的な判断を下します。
④指導面接(育成面接とも呼ぶ)
- これが、この「人を育てる」評価制度の最も重要なステップと言っても過言ではありません。
- 最終決定された評価結果を、本人(被評価者)に伝えます。単に結果を伝えるだけでなく、評価結果に至った理由や、評価期間中の良かった点、改善が必要な点などを具体的に伝え、新しい年度に向けた留意点や、今後の能力開発の目標設定などについて、建設的な対話を行います。
- 評価コメントの書き方も重要です。まず、優れた点や努力を認め、「ありがとう」と感謝を伝えましょう。そして、改善すべき点を2~3点に絞り、具体的な改善方法も含めて指導内容とするのが望ましい形です。さらに、上司として社員の成長のために「何ができるか」を約束することも、部下のやる気を引き出す上で非常に効果的です。
- この面接は、単に評価結果を伝える場ではなく、部下の成長を支援し、育成していくための時間です。評価者が日頃から部下とコミュニケーションを取り、指導しているかどうかが、この面接の成否を分けます。
「人が人を評価する」というのは、非常に難しく、デリケートな問題です。どうしても評価する人の主観が入ってしまったり、「偏った見方」「ハロー効果」「期末効果」「推測誤差」といった誤り(エラー)が入り込みやすくなります。
しかし、だからといって評価をやめるわけにはいきません。評価がなければ、公正な処遇も、育成の計画も立てられないからです。
これらの評価エラーを最小限に抑えるためにも、先ほど述べた「評価の着眼点」を具体的に作成することが非常に有効です。評価すべき行動を具体的に定義することで、評価基準の曖昧さをなくし、誰が見ても同じように評価できるようになります。
そして何より、「評価者訓練」を必ず実施することが重要です。評価者は、評価制度の目的を正しく理解し、評価を受ける部下の人間性を損なうような評価や面接を行わないように、評価の基準や方法、そして部下育成の考え方について、しっかりと学ぶ必要があります。評価者同士で、評価についての意見交換やケーススタディを行うことも、評価基準の統一を図る上で非常に役立ちます。
実は、この評価制度を運用していく過程で、一番能力が向上するのは、「評価される人」よりも「評価する人」、つまり管理職なのです。部下をよく見て、行動を観察し、評価し、フィードバックするという一連のプロセスを通じて、管理職自身の部下育成能力や管理能力が磨かれていきます。これが、評価制度の隠れた、しかし非常に重要な目的の一つなのです。
6.評価要素のウエイト付け – 等級による傾斜
評価要素である「成果」「勤務態度」「能力」の3つについて、それぞれをどれくらい重視するか、「ウエイト」を決める必要があります。そして、このウエイトは、社員の等級(能力レベル)によって変えるのが適切です。
なぜ等級によってウエイトを変える必要があるのでしょうか? それは、期待される役割や責任が等級によって異なるからです。
基本的な考え方はこうです。
- 下級者(1・2級):まずは社会人としての基礎となる「勤務態度」に重点を置きます。報告・連絡・相談、規律、協調性、マナーなどです。これらがきちんとできていないと、どんなに能力があっても組織で活躍することは難しいからです。もちろん、「成果」や「能力」も評価しますが、ウエイトは控えめになります。
- 中級者(3・4級):基本的な「勤務態度」に加え、実際の業務における「成果」と、その成果を出すための「能力」のウエイトを高めます。現場のリーダーとして、自身の業務で成果を出し、周りを巻き込みながら仕事を進めることが期待されるからです。
- 上級者(5・6級以上):組織全体や部門の成果に責任を持つ立場ですから、「成果」のウエイトを最も高くします。同時に、自身の「能力」を発揮し、部下を育成し、部門をマネジメントしていく「管理職としての能力」も非常に重要になります。
具体的にどのようなウエイトにするかは、皆さんの会社の業種や、社員に何を特に期待するのかによって調整が必要です。例えば、新しい事業を積極的に展開したい、技術力を高めたい、といった経営方針があれば、「能力」のウエイトを少し高くすることも考えられます。このウエイト付けは、10点単位で設定していくのが一般的です。
(記入例)
| 評価要素 | 1・2級 | 3・4級 | 5・6級 |
| 成果 | 30 | 40 | 50 |
| 勤務態度 | 40 | 30 | 20 |
| 能力 | 30 | 30 | 30 |
| 合計 | 100 | 100 | 100 |
上記はあくまで一例です。このウエイト付けは、プロジェクトメンバーの皆さんでしっかりと議論して、皆さんの会社にとって最もふさわしい形を決めていってください。これが、実際の「評価シート」に反映されることになります。評価シートでは、それぞれの評価要素につけられた評点に、このウエイトを掛け合わせて、最終的な評価点や評語(S、A、B、C、D)が決定される仕組みになります。
7.評価シートと評価の練習
ウエイト付けが決まれば、いよいよ評価シートの設計に入ります。このシートは、先ほど等級別にウエイトを変えたように、等級別にシートを作成するのが一般的です。例えば、1・2級用、3・4級用、5・6級用といった具合です。シートは全社共通とし、部門別には作成しません。
評価シートには、評価要素ごとに設定した「評価の着眼点」が記載され、評価者はそれに沿って評点をつけていきます。また、勤怠情報を記入する欄や、評価結果だけでなく、社員の「総合的なコメント」、特に「具申事項」や「改善して欲しい点」、「優れた点」などを具体的に記載する欄を設けることが非常に重要です。このコメント欄を充実させることで、評価が単なる数字や記号だけでなく、社員の育成に繋がる生きた情報となります。
評価シートが完成したら、すぐに本番運用に入るのではなく、必ず評価者による「評価の練習」を行うべきです。プロジェクトメンバーや管理職で、実際に社員を想定して評価シートを記入してみるのです。この練習を通じて、評価基準の解釈のずれをなくしたり、記入方法を習得したりします。評価者訓練の際には、実際に記入した評価シートを持ち寄り、ケーススタディ形式で意見交換することも非常に効果的です。
8.まとめ
ここまで行動評価制度の設計について、評価要素、時期、手順、ウエイト付けといった主要な項目を見てきました。改めて強調したいのは、この評価制度は単に社員を「評価すること」が目的ではない、ということです。その真の目的は、「社員全員により高い能力を身につけ、より良い社員に育ってもらう」こと、そしてその結果として「社員の働きがいを高め、企業の発展に繋げる」ことです。
評価制度は、適切に運用すれば社員の成長と企業の発展に大きく貢献する強力なツールとなりますが、一歩間違えれば社員の不信感やモチベーション低下を招く「両刃の剣」でもあります。
この制度を成功させるためには、制度設計そのものだけでなく、それを運用する「人」、つまり評価する側(主に管理職)と評価される側の、お互いを思いやる「前向きな気持ち」が何よりも大切です。
そして、その前向きな運用をリードしていくのは、誰あろう、経営者である皆さん自身です。「人を育てる」という強い意志を持ち、プロジェクトメンバー、管理職、そして全社員と対話し、協力しながら、皆さんの会社にぴったりの、そして社員が心から納得し、「頑張ろう!」と思ってくれるような評価制度を、ぜひ一緒に創り上げていきましょう。
次回は、この評価制度を実際に運用するための「評価者訓練」や「人事評価規程」について、さらに具体的に見ていきたいと思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました
投稿者プロフィール

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木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。
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