【第12回】宿直中の仮眠時間に残業代は必要?社長が知るべき労務リスク

1. はじめに

「先生、うちはビル管理や警備、ホテル業などをしていて、夜間は社員に宿直勤務をしてもらっているんだ。ちゃんと数千円の『宿直手当』を支給しているし、夜中の数時間は布団で仮眠をとっている。それなのに、『仮眠時間も残業代を払ってください』なんて社員から言われたんだけど、寝ている時間に給料が出るなんておかしくないかい?」

夜間の施設管理や警備、ホテル業務などを手がける中小企業の社長から、このようなご相談をいただくことがあります。

布団に入って横になり、実際に作業をしていない時間にまで賃金を支払わなければならないとしたら、経営者として納得がいかないと感じるのも無理はありません。

しかし、労務管理の世界では、この「仮眠時間」の扱いを一歩間違えると、過去の未払い賃金を請求されるなど、会社に大きな経済的負担が生じるリスクがあります。

ブログ連載第12回は、知っておかないと会社に深刻な影響を与えかねない「宿直と仮眠時間に潜む労務リスク」について解説します。

2. 「寝ている」=「休み」とは限らない!待機時間が労働時間になるケースとは?

まず、法律上の「労働時間」の基本的な考え方を整理しましょう。

労働時間とは、単に手や体を動かして作業をしている時間だけではありません。使用者の指揮命令下に置かれている時間も、労働時間に該当します。

たとえベッドで横になって目を閉じていたとしても、次のような状態であれば注意が必要です。

  • 非常ベルが鳴ったら、起きて対応しなければならない
  • 電話がかかってきたら、応答しなければならない
  • 来客や不審者が来たら、対応しなければならない

このように、何かあればすぐに対応することが求められ、自由に利用できる時間が保障されていない場合は、実際に作業をしていなくても、労働時間と判断される可能性があります。

こうした時間は、一般に「手待時間(てまちじかん)」と呼ばれます。

つまり、「何かあったら起きて対応する」という条件で眠っている場合、本人が実際に眠っていたとしても、労働時間に該当することがあるのです。

一方、業務から完全に解放され、労働者が自由に利用できる時間であれば、休憩時間と判断される可能性があります。

大切なのは、単に眠っていたかどうかではなく、勤務中にどの程度の対応を求められ、業務から解放されていたかという実態です。

3. 運命の分かれ道:労働基準監督署の「宿日直許可」を受けていますか?

「じゃあ、夜間に会社に泊まり込んでもらう宿直勤務では、一晩中、残業代と深夜割増賃金を払い続けなければならないのか?」

そう心配になる社長もいらっしゃるでしょう。

ここで重要になるのが、労働基準監督署長による「宿日直許可」です。

労働基準法では、原則として1日8時間・週40時間を法定労働時間と定めています。また、時間外労働や深夜労働などには、一定の要件のもとで割増賃金の支払いが必要です。

ただし、通常の業務がほとんど発生しない宿直・日直勤務について、所轄労働基準監督署長の許可を受け、許可の範囲内で勤務させる場合には、労働基準法第41条第3号により、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されます。

これが、いわゆる「宿日直許可」です。

ただし、宿日直許可を受ければ、どのような夜間勤務でも労働時間として扱わなくてよいわけではありません。許可の対象となる勤務内容や、実際の勤務状況が重要になります。

4.許可がない場合に注意すべきこと

もし宿日直許可を受けないまま、会社の判断だけで「宿直だから宿直手当を支払えばよい」と運用していたら、どうなるでしょうか。

宿日直許可がない場合、宿直勤務についても通常の労働時間に関するルールが適用されます。

仮眠時間であっても、使用者の指揮命令下に置かれていると判断されれば、労働時間として扱う必要があります。

その結果、法定労働時間を超える時間外労働や、午後10時から翌日の午前5時までの深夜労働に該当する時間について、割増賃金の支払いが必要になる可能性があります。

例えば、時間外労働の割増率が25%以上、深夜労働の割増率が25%以上である場合、両者が重なる時間帯の割増率は原則として合計50%以上となります。

なお、宿直手当を支払っていたとしても、それだけで必要な割増賃金を支払ったことになるわけではありません。支給した手当の性質や金額、実際に支払うべき賃金額などを確認する必要があります。

こうした状態を長期間放置すると、退職した社員から未払いの時間外・深夜割増賃金を請求され、多額の支払いが必要になるおそれがあります。

5. 今日からできる具体的な一歩:自社の「宿直」を緊急チェック

「うちの宿直は大丈夫だろうか……」と不安になった社長は、まず次の3つのステップで確認と見直しを進めてください。

ステップ1:宿日直許可を受けているか確認する

過去に労働基準監督署長から宿日直許可を受けているか、許可に関する書類を確認してください。

許可を受けていない場合は、宿直手当を支払っているという理由だけで、労働時間や割増賃金に関する法的な問題を回避できるわけではありません。

勤務実態を確認し、必要に応じて労働時間の集計や賃金の支払い方法を見直しましょう。

ステップ2:実際の勤務状況が許可の基準に合っているか確認する

過去に許可を受けていたとしても、実際の勤務状況が許可の内容から外れていないか確認する必要があります。

例えば、次のような状況には注意が必要です。

  • 夜間に何度も通常業務が発生している
  • 電話が頻繁に鳴り、十分な睡眠をとれない
  • 緊急対応以外にも、日常的な業務を行っている
  • 許可を受けた勤務内容と、実際に行っている業務が異なっている

宿日直許可は、許可を受けたという事実だけでなく、その範囲内で適切に運用されていることが重要です。

ステップ3:夜間の勤務体制を見直す

業務の負担が重く、宿日直許可の要件を満たすことが難しい場合は、無理に宿直勤務として扱わず、夜間専用のシフトを組む交代制勤務へ移行する方法もあります。

業務内容によっては、警備会社などの外部サービスへの委託も選択肢となるでしょう。

宿日直の許可申請には、通常の業務がほとんど発生しないこと、十分な睡眠設備があること、宿日直手当が適切な水準であることなど、さまざまな要件があります。

自社の宿直勤務が許可基準を満たしているか判断に迷う場合は、顧問の社会保険労務士などの専門家に確認・相談することをおすすめします。

6. まとめ

宿直中の仮眠時間は、社長から見れば「休んでいる時間」に見えても、法律上は「会社の指揮命令下にある時間」と判断される場合があります。

重要なのは、実際に眠っていたかどうかだけでなく、勤務中にどのような対応を求められ、自由に利用できる時間が保障されていたかという点です。

宿日直許可を受けている場合でも、許可の範囲内で勤務が行われているかを確認する必要があります。許可がない場合は、仮眠時間を含む勤務の実態を確認し、労働時間の集計や割増賃金の支払いが適切かどうかを見直しましょう。

「宿日直許可を受けて適切に運用するか、通常の労働時間として管理し、必要な賃金を支払うか」。この点を曖昧にせず、適切な労務管理を行うことが、未払い賃金のリスクから会社と社長を守ることにつながります。

投稿者プロフィール

石田厳志
石田厳志
木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。