【第08回】社長の「暇なら休んでいいよ」が、実は一番危ない理由

1.はじめに

「来客がない時は休んでいいよ」という社長の気遣いが、実は法律違反になるかもしれません。休憩時間の「自由利用の原則」と、待機しているだけの「手待時間」の決定的な違いを解説。トラブルを防ぎ、会社を守るための正しい休憩の方法をお伝えします。

2. 「うちは暇な時間が多いから、それが休憩代わりだよ」という落とし穴

「先生、うちは小さな小売店でね。一日中ずっと忙しいわけじゃない。お客さんが来ない時間は、従業員も奥の椅子に座ってスマホをいじったりお茶を飲んだり、自由に過ごしているよ。だから、わざわざ『休憩時間』なんて決めなくても、十分に休めているはずなんだけど……」

小規模な店舗や事務所を経営する社長から、よくこのようなお話を伺います。社長としては、ガチガチに時間を縛るよりも、手の空いた時間に自由にリラックスしてもらうほうが、従業員にとっても「楽でいいだろう」という、ある種の優しさから出た言葉であることも多いのです。

しかし、労務管理のプロとしてお伝えしなければなりません。その「暇な時は休んでいい」という運用は、法律上は休憩時間として認められない可能性が非常に高いのです。

ブログ連載第8回は、良かれと思ってやっている「適宜休憩」に潜むリスクと、会社を守るための「正しい休憩」の考え方についてお話しします。

3. 法律が定める休憩の鉄則:「仕事から完全に離れること」

まず、法律が定める「休憩時間」の定義を、もう一度はっきりさせておきましょう。

休憩時間とは、従業員が「仕事(労働)から完全に離れること」が保障されている時間のことを指します。単に「今、手が空いている」だけでは不十分なのです。

労働基準法には、休憩について社長が守るべき3つの原則があります。

  1. 労働時間の途中に与える(仕事が終わった後に「早く帰っていいよ」は休憩になりません)。
  2. 原則、一斉に与える(ただし、商業、接客娯楽業等など一部の業種や、労使協定がある場合は交代制も可能です)。
  3. 自由に利用させる

この3番目の「自由利用」が、今回のテーマの鍵となります。

4. 「手待時間(てまちじかん)」は、休憩ではなく「立派な仕事」です

「暇な時は休んでいいよ」と言いつつも、いざお客さんが来たり電話が鳴ったりしたら、従業員はどう動くでしょうか?当然、すぐに接客をしたり、電話に出たりしますよね。

このように、「指示があればただちに仕事ができる態勢で待機している状態」は、法律上「手待時間」と呼ばれ、休憩ではなく「労働時間」としてカウントされます

販売店などで、「来客が途切れたときは適宜休憩をとってよい」という規則を作ったとしても、来客があれば即座に対応しなければならない状態は、完全に仕事から離れているとは認められません。

つまり、社長が「1時間はお茶を飲んでいたから休憩させた」と思っていても、その間にいつでも動けるように待機させていたのであれば、それは「1時間分の賃金が発生する労働時間」だったとみなされてしまうのです。

もし労働基準監督署の調査が入った際、1日の労働時間が6時間を超えているのに、こうした「手待時間」しか与えられていなければ、休憩を与えていないという法違反を指摘され、過去の賃金についても、未払い分の支払いを求められるリスクがあります。

5. 今日からできる具体的な一歩:看板や「休憩中」の札を活用する

「そうは言っても、人が少ないから店を閉めるわけにいかないし、どうすればいいんだ?」

そう頭を抱えてしまう社長、ご安心ください。大切なのは「完全に仕事から切り離す仕組み」を作ることです。今日からできる一歩は以下の通りです。

  • 「休憩中」の札を出す: もし1人しかいない時間帯であれば、「〇時〜〇時までは休憩のため閉めます」という札を出して、その間は電話も留守電にする。これで「完全に仕事から離れた」と言えるようになります。
  • 交代制を明確にシフトに組み込む: 「暇な時に」という曖昧な指示ではなく、「Aさんは12時から、Bさんは13時から」と時間を決め、休憩中の人は接客や電話対応をしないなど、周囲からも「今は仕事中ではない」とわかるようにします。
  • 休憩場所を確保する: レジカウンターの裏ではなく、可能であれば接客スペースから離れた場所で休めるように配慮してください。

「うちはそんなに堅苦しく考えなくてもいいよ」という従業員の言葉を鵜呑みにするのは危険です。ルールを曖昧にすることは、将来的に「あの時間は休めていなかった」という不満や請求を生む原因になります。

もし、「うちの店のような特殊なシフトでどう休憩を回すべきか?」と判断に迷われる場合は、個別の状況に応じた運用方法について、顧問の社会保険労務士などの専門家に確認することをお勧めします。

6. まとめ

休憩時間は、従業員の心身をリフレッシュさせ、午後の仕事の能率を上げるための投資です。そして何より、「仕事から完全に解放する」という明確な線引きこそが、社長と会社を未払い賃金トラブルから守る最強の防波堤になるのです。

投稿者プロフィール

石田厳志
石田厳志
木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。