【第06回】電話番は「休憩」じゃない?社長が知るべき手待時間の落とし穴

1. 「昼休みくらい、誰か電話に出てよ」という本音

「先生、うちは事務員が一人しかいないから、彼女が昼休みで外出してしまうと電話に出る人がいなくなっちゃうんだよ。だから、お昼の間だけはデスクでご飯を食べながら、電話が鳴ったら出てねってお願いしているんだけど……これって普通だよね?」

少人数の会社を経営する社長から、実によく聞くご相談です。 「昼休みに電話が鳴りっぱなしなのは商機を逃すし、会社の信用にも関わる」という社長の危機感は、ビジネスの現場では極めて正しい感覚でしょう。

しかし、労務管理の世界では、この「デスクでの電話待ち」が、社長の足をすくう大きな落とし穴になるのです。 結論からお伝えします。「電話が鳴るのを待っている時間」は、法律上は休憩ではなく「仕事(労働時間)」とみなされます。

ブログ連載第6回は、意外と知られていない「手待時間(てまちじかん)」の正体と、会社を守るための休憩のルールについてお話しします。

2. 「休憩」と「手待時間」の決定的な違い

まず、法律が定める「休憩時間」の定義をはっきりさせておきましょう。

休憩時間とは、従業員が「仕事から完全に離れること」が保障されている時間のことを指します。単に「実作業をしていない」だけでは不十分なのです。

これに対し、会社からの指示があればすぐに仕事ができる態勢で待機している状態を、専門用語で「手待時間」と呼びます。たとえ実際に電話が1本も鳴らなかったとしても、また、机で弁当を食べていたとしても、指示を待っている以上、その時間は社長の指揮監督下にある「労働時間」としてカウントされます。

つまり、昼休みに電話番をさせているのであれば、その時間は休憩を与えたことにはなりません。この認識のズレが、将来的に「未払い残業代」としての請求や、労働基準監督署からの是正勧告を招く火種になるのです。

3. 休憩時間の「3つの原則」を知っていますか?

労働基準法には、休憩について社長が絶対に守らなければならない原則があります。

  • 労働時間の途中に与える: 仕事の合間に挟まなければなりません。
  • 一斉に与える(原則): 従業員全員が同じ時間に休むのが基本です(ただし、接客業など一部の業種や、労使協定がある場合は交代制も可能です)。
  • 自由利用の原則: これが最も重要です。従業員が休憩時間を「自由に使える」ようにしなければなりません。

「暇な時は休んでいいよ」というルールを作ったとしても、来客があれば即対応しなければならない状態は、この「自由利用」を妨げていると判断されます。

また、休憩の長さについてもルールがあります。1日の労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分の休憩を、勤務時間の途中で与えなければならないと決まっています。

もし昼休みに1時間「電話番」をさせたなら、社長はその従業員に対し、別の時間帯に1時間まるまるの「完全に自由な休憩」を別途与える義務が生じているのです。

4. 今日からできる具体的な一歩:仕組みで解決する

「そうは言っても、電話に出ないわけにはいかないよ」という社長、ご安心ください。法律を守りながら会社を守るための方法は、精神論ではなく「仕組み」で作ることができます。

  • 電話の自動応答・転送機能を活用する: 昼休みの時間帯だけ「ただいま休憩時間です」というメッセージを流したり、社長の携帯に転送されるように設定したりしましょう。
  • 完全な交代制を導入する: 「12時から13時」と「13時から14時」など、休憩時間を完全にずらし、休憩中の人は「電話対応義務なし」として外出も自由であることを明確にします。
  • 留守番電話機能を設定する: 「〇時までお休みをいただいております」とガイダンスを流すだけでも、最近では「しっかりした会社だ」と好意的に受け取られるケースが増えています。

多くのトラブルは「当たり前だと思っていた慣例」の見直しから解決します。まずは、「昼休みに電話に出ることは仕事である」と認めることから始めてみてください。

もし、「うちの業種でも一斉休憩が必要なのか?」「交代制にするにはどんな書類が必要か?」と疑問に思われたら、個別のケースによって判断が分かれることもあるため、顧問の社会保険労務士などの専門家に確認することをおすすめします。

5. まとめ

休憩時間は、従業員の心身の疲労を回復させ、午後の仕事の能率を上げるために不可欠なものです。 適切な休憩を保障することは、従業員の健康を守るだけでなく、「サービス残業」という法的なリスクから、社長と会社を確実に守ることにつながります。

投稿者プロフィール

石田厳志
石田厳志
木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。
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