第04回:LINEで契約はアリ?社長が守るべき「労働条件」通知のルール
1. はじめに
「先生、最近は面接の調整もLINEだし、採用が決まった後の連絡もLINEで済ませているんだけど、これってマズいかな? いちいち紙で契約書を郵送するのも手間だし、本人も『LINEで送ってください』って言ってるんだけど……」
小規模企業の社長から、最近特によく受ける相談です。 確かに、スピード感のある経営をされている社長にとって、スマホ一つで連絡が完結するLINEやメールは非常に便利なツールですよね。わざわざ封筒を用意して、切手を貼ってポストに投函する……という作業を「時代遅れ」と感じるのも無理はありません。
結論から申し上げます。労働条件をメールやSNSで通知することは、一定のルールさえ守れば「アリ」です。
しかし、このルールを一つでも踏み外すと、せっかくの通知が法的に不備ありとみなされ、将来「そんな条件、聞いていません!」という泥沼のトラブルに発展するリスクがあります。
ブログ連載第4回は、忙しい社長がやりがちなデジタル連絡に潜む「落とし穴」と、会社を守るための正しい通知方法についてお話しします。
2. 原則は「書面の交付」。でもデジタルも解禁されている
まず基本のおさらいです。会社が従業員を雇う際、賃金や労働時間などの重要な労働条件をはっきりと示すことは、法律(労働基準法第15条)で義務付けられています。
以前は、この通知は「紙(書面)」で渡すことしか認められていませんでした。しかし、時代の変化に合わせてルールが緩和され、現在は以下の3つの方法のいずれかで行うこととされています。
- 書面の交付
- FAX
- 電子メール等(LINEなどのメッセージアプリを含む)
つまり、デジタルでの通知も法律上認められた「正当な方法」の一つなのです。ただし、これには社長が絶対に忘れてはならない「2つの絶対条件」があります。
3. 条件その①:従業員本人がデジタルでの通知を「希望」していること
ここが最大のポイントです。メールやLINEでの通知は、あくまで「労働者が希望した場合」に限って認められる例外的な方法です。
社長の都合だけで勝手に「うちはペーパーレスだからLINEで送るね」と決めることはできません。 実務上は、面接時や内定を出す際に、「労働条件の通知はメール(またはLINE)でもいいかな?」と本人に確認を取り、同意を得ておく必要があります。
もし本人が「できれば紙でほしいです」と言った場合は、どんなに面倒でも紙の書面(労働条件通知書)を渡さなければなりません。
4. 条件その②:本人が「印刷(書面作成)」できる状態であること
デジタルで送る際に、意外と見落としがちなのがこの条件です。 通知した内容は、「受け取った本人がプリントアウトして書面を作成できるもの」でなければなりません。
例えば、LINEのメッセージ機能で、「時給は1,200円、時間は9時から17時です」と文字情報だけを送るのはどうでしょうか。これでは「書面として出力できる形式」としては不十分とみなされる可能性が高いのです。
会社を守るための正しいやり方は、「モデル労働条件通知書」などの正式なフォーマットに全ての項目を記入し、PDFなどのファイル形式にして、メールに添付したりLINEで送信したりする方法です。
これなら、本人が自宅のプリンターやコンビニで印刷して、手元に「紙」として残すことができますよね。この「形に残せる」ということが、法的な証拠能力を持たせるための鉄則なのです。
5. 今日からできる具体的な一歩:送りっぱなしを卒業する
デジタル連絡は手軽な反面、相手が正しく確認したかどうかが不透明になりがちです。今日から人を雇う際は、以下の手順をルーチンにしてください。
- ステップ1: 採用決定時に「通知書をLINE(またはメール)で送ってもいいか」を確認する。
- ステップ2: 厚生労働省の「モデル労働条件通知書」を作成し、PDF化する。
- ステップ3: ファイルを添付して送信し、「届いたら確認のために返信をください」と一言添える。
「届きました」「内容確認しました」という本人からの返信までセットで保管しておけば、将来「聞いていない」というトラブルが起きた際の、社長を守る強力な防御策になります。
もし、「うちの複雑なシフトや手当をPDF化にする方法がわからない」「LINEで送る際、文面はどうすればいいのか」と悩まれることがあれば、迷わず顧問の社会保険労務士などの専門家に相談してください。
6. まとめ
メールやLINEでの労働条件通知は、社長の業務を効率化する便利な手段です。しかし、それは「従業員が希望し、かつ、いつでも印刷して形に残せること」が前提です。
デジタルを便利に使いつつ、ルールを正しく守る。その細かな配慮が、従業員からの「この社長はしっかりしているな」という信頼につながり、あなたの会社を不必要な争いから守ることになるのです。
投稿者プロフィール

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木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。
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