第05回:「お試し」だからクビにできる?試用期間に潜む解雇の落とし穴
1. はじめに
「先生、今度入った新人なんだけど、どうも求人票のイメージと違うんだよね。まだ試用期間だし、悪いけど明日から来なくていいって伝えても大丈夫だよね?」
数人の会社を切り盛りする社長から、このような相談をよく受けます。 社長にしてみれば、「試用期間」は文字通り「お試し」の期間。相性が合わなければ、本格的に採用する前にお引き取り願うのは当たり前……そう考えてしまうのも無理はありません。
しかし、ここに小規模企業の経営者が最もハマりやすい「法的な罠」があります。 結論からお伝えします。「試用期間中なら自由に解雇できる」というのは大きな誤解です。
ブログ連載第5回は、知っておかないと後で多額の賠償請求をされかねない「試用期間と解雇の本当のルール」についてお話しします。
2. 運命の分かれ道は「14日」にあり
まず、社長が絶対に覚えておくべき数字があります。それは「14日」です。
法律上、試用期間中の従業員を解雇する場合、雇い入れから14日以内であれば、通常の解雇で必要な「解雇予告(30日前の通知)」の手続きが不要とされています。
しかし、逆に言えば、14日を超えて1日でも長く雇った場合、その従業員は法律上、本採用の社員とほぼ同じ「鉄壁の守り」を得ることになります。
「1ヶ月様子を見て判断しよう」と安易に考えている間に、この14日の期限はあっという間に過ぎてしまいます。15日目以降に「明日から来なくていい」と伝えてしまうと、たとえ試用期間中であっても、次に説明する厳しい手続きの壁にぶつかることになるのです。
3. 14日を過ぎたら「30日分の給料」か「猶予」が必要
もし、14日を超えた従業員を解雇しようとするなら、社長は次のどちらかを選ばなければなりません。
- 少なくとも30日前に「解雇します」と予告する
- 30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を即座に支払う
「相性が悪いから辞めてもらう」だけなのに、1ヶ月分の給料を余分に払わなければならない……。これは資金繰りに奔走する小規模企業の社長にとって、大きな痛手のはずです。
また、「試用期間中に退職した場合には賃金を支払わない」といった契約を交わしているケースも見かけますが、これは法律で明確に禁止されており、合意があっても無効となります。
4. 「解雇の理由」は社会が納得できるものですか?
お金を払えば解決する、というわけでもありません。ここが最も厄介なポイントです。 労働基準法だけでなく労働契約法という法律があり、そこには「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効」と定められています。
これは試用期間中であっても適用されます。 確かに、本採用後の従業員に比べれば「解雇の理由」は少し広く認められる傾向にはありますが、それでも「なんとなく雰囲気が合わない」「一度のミスをした」といった理由だけでは、裁判で負けてしまう可能性が高いのです。
解雇を有効にするためには、具体的にどのような問題があり、会社としてどのように指導し、それでも改善しなかったかという「プロセス」が求められます。
5. 今日からできる具体的な一歩:評価の「早期化」と「言語化」
「じゃあ、一度雇ったら最後、辞めてもらうことはできないのか?」と絶望しないでください。会社を守るために、今日からできる一歩は以下の3つです。
- 最初の14日間で徹底的に見極める: 最初の2週間を「お互いの相性を確認する最重要期間」と位置づけ、社長自ら積極的にコミュニケーションを取ってください。
- 「解雇の事由」を就業規則に明記する: どのような場合に解雇される可能性があるのかを、あらかじめルール(就業規則)として決めておく必要があります。
- 指導内容をメモに残す: もし問題があると感じたら、いつ、どんな指導をしたかを記録しておきましょう。これが将来、万が一のトラブルの際の社長の盾になります。
ただし、実際に「解雇」という決断を下す前には、必ず顧問の社会保険労務士などの専門家に相談してください。個別のケースによって「社会一般の常識に照らして相当かどうか(社会通念上相当)」の判断は非常に難しいため、勝手な断定は禁物です。
6. まとめ
試用期間は、社長が従業員を「選ぶ」期間であると同時に、法律によって社長の「管理能力」が試される期間でもあります。
安易な「お試し雇用」の感覚を捨て、ルールに基づいた誠実な対応をすること。それが、不毛な労働紛争からあなたの会社と、そして社長自身の心を守る唯一の道なのです。
投稿者プロフィール

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木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。
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