第03回:2024年4月から新常識!雇用契約書に「書くべきこと」の変更点
1. はじめに
「先生、うちは10年前から同じ雇用契約書のテンプレートを使っているんだけど、何か問題あるかな? 従業員も納得してハンコを押してくれているし、わざわざ新しく作り直すのも面倒でね……」
これは、多くの小規模企業の社長からよく聞かれる言葉です。日々忙しく、本業で手一杯の社長にとって、法律が変わるたびに書類を更新するのは、確かに大きな負担に感じられることでしょう。
しかし、結論から申し上げます。2024年(令和6年)4月1日から、雇用契約の際の「新ルール」が始まっており、以前のままの契約書を使い続けることは、法令違反のリスクだけでなく、将来的な大トラブルを招く危険があります。
ブログ連載第3回は、2024年4月から変わった雇用契約の「新・常識」について、社長が今すぐ確認すべきポイントを噛み砕いてお伝えします。
2. 全ての従業員が対象!「仕事内容の変更範囲」を明示する
今回の改正で、最もインパクトが大きいのが「就業場所・業務の変更の範囲」の明示です。
これまでは、「入社した直後にどこで、どんな仕事をするか」を書けば足りました。しかし、新ルールでは、「将来的に、働く場所や仕事内容がどこまで変わる可能性があるか」もあらかじめ書面に書いておかなければならなくなりました。
例えば、こんなケースを想像してください。 「現場作業員」として雇った従業員に、数年後、人手不足から「営業」への配置転換を命じたとします。もし契約書に「業務の変更範囲:会社の定める業務」といった記載がなければ、従業員から「私は現場作業員として雇われたはずだ。営業なんて聞いていない!」と拒否され、最悪の場合、法的な争いに発展してしまう可能性があるのです。
トラブルを防ぐためには、契約書に以下のように具体的に書いておく必要があります:
- 就業場所:(雇入れ直後)〇〇営業所、(変更の範囲)会社の定める拠点
- 職務内容:(雇入れ直後)現場作業、(変更の範囲)営業業務への転換を含む会社の定める業務
なお、出張や研修、一時的な他部門への応援などは、この「変更の範囲」に含めなくてよいとされています。あくまで、腰を据えて働く場所やメインの仕事が変わる可能性を明確にすることが求められています。
3. パート・アルバイトの方への「更新ルール」が厳格に
次に注意が必要なのが、期間の定めがある「有期契約」の従業員(パート、アルバイト、契約社員など)へのルール変更です。
「更新上限」の有無をはっきりさせる
契約を更新する場合に、「通算契約期間は最長5年まで」「更新回数は3回まで」といった更新上限があるのかないのか、ある場合はその内容を明示しなければならなくなりました。 また、これまでなかった上限を新たに設けたり、上限を短縮したりする場合には、あらかじめその理由を従業員に説明しなければなりません。
「無期転換」の権利を教える義務
有期契約が更新されて通算5年を超えると、従業員には「期間の定めのない契約(無期雇用)」への転換を申し込む権利が発生します。 今回の改正により、この「無期転換の申込ができること」と、「無期転換した後の給料などの条件」を、権利が発生するタイミング(契約更新時)で必ず伝えなければならなくなりました。
「そんなことを教えたら、みんな正社員になりたがって困るよ」と心配される社長もいるかもしれません。しかし、これらは全て、後から「聞いていなかった」「だまされた」と言われるリスクをゼロにするためのものです。あらかじめルールを透明にしておくことで、不意の権利主張によるパニックを防ぐことができるのです。
4. この新ルールは「いつ」適用されるのか?
「今すぐ全員の契約書を書き直さないといけないのか?」と焦る必要はありません。 新しいルールが適用されるのは、2024年4月1日以降に、新しく契約を結ぶ人、または契約を更新する人からです。
しかし、トラブル防止の観点からは、制度改正以前から働いている従業員についても、次の更新時などに「変更の範囲」などを明示することを検討するのが賢明な経営判断と言えるでしょう。
5. 今日からできる具体的な一歩:テンプレートの入れ替え
今回の変更は、小規模企業であっても例外なく適用されます。忙しい社長が今すぐできる対策は、「古いひな型を捨てる」ことです。
厚生労働省のホームページでは、最新のルールに対応した「モデル労働条件通知書」が公開されています。まずはこれをダウンロードし、自社の「変更の範囲」や「更新ルール」をどう設定すべきか、自社ではどのような記載が必要か確認してみてください。。
もし、「うちのような特殊な職種では、変更の範囲をどう書けばいいのか?」「無期転換後の給料はどう決めるべきか?」といった実務上の判断に迷われた場合は、勝手に判断せず、顧問の社会保険労務士などの専門家に相談されることを強くおすすめします。
6. まとめ
今回のルール改正は、一見すると手間が増えるだけのように見えます。しかし、「どこまで働かせる可能性があるか」「いつまで契約が続くか」をあらかじめ書面で合意しておくことは、社長が自信を持って指揮命令を出すための「ライセンス」を手に入れることでもあります。
曖昧な口約束ではなく、最新のルールに則った書面を交わす。それが、従業員の安心感を生み、社長の大切な会社をトラブルから守る最強の盾になります。
投稿者プロフィール

-
木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。
最新の投稿
三代目のブログ2026年6月15日第03回:2024年4月から新常識!雇用契約書に「書くべきこと」の変更点
三代目のブログ2026年6月1日第02回:「口約束で十分」が危ない!トラブルを防ぐ労働条件の明示ルール
三代目のブログ2026年5月15日第01回:「1人でも雇ったらアウト?」社長が知るべき労務管理の守備範囲
三代目のブログ2026年5月1日第12回:制度運用と継続的改善


