「年収の壁」と向き合う中小企業経営者のための知識と戦略

はじめに

令和5年は、賃上げが高水準で行われました。実際、地域別最低賃金額の全国加重平均は 1,004 円と、政府の目標である 1,000 円を上回る結果となりました。このような背景から、中小企業や小規模事業者も賃上げしやすい環境が整ってきています。本記事では、中小企業の経営者が知っておくべき「年収の壁」やその背景となる経済状況、そしてその問題を解決するための具体的なアドバイスを提供します。

1.年収の壁とは

会社員や公務員の配偶者で扶養され社会保険料の負担がない「第3号被保険者」のうち約4割が働いています。その中には、一定以上の収入(106万円または130万円)となった場合の社会保険料負担等による手取り収入の減少を理由として、就業調整をしている方が一定程度存在しています。

① 106万円の壁とは

会社員や公務員に扶養されている「第3号被保険者」が従業員101人以上の企業で週20時間以上働いて年収 106 万円を超すと、扶養から外れて社会保険に加入しなければならなくなり、結果として手取り額が減りかねないため労働時間を調整することを指します。

② 130万円の壁とは

会社員や公務員に扶養されている「第3号被保険者」がパート等で働き、年収 130 万円以上になった場合、扶養から外れて国民健康保険と国民年金に加入しなければならず、保険料の負担が発生し、結果として手取り額が減ってしまうことを指します。

2.「年収の壁・支援強化パッケージ」について

人手不足への対応が急務となる中で、短時間労働者が「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを支援するため、令和5年9月27日に厚生労働省から「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されました。このパッケージは、「106万円の壁への対応」「130万円の壁への対応」「配偶者手当への対応」の3本柱からなっています。以下に、3本柱について説明します。

3.106万円の壁への対応

① キャリアアップ助成金のコースの新設

キャリアアップ助成金のコースを新設し、短時間労働者が被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用による手取り収入の減少を意識せずに働くことができるよう、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対して、労働者1人当たり最大 50 万円の支援を行うものです。なお、実施に当たり、支給申請の手続きを簡素化されます。労働者の収入を増加させる取り組みについては、賃上げや所定労働時間の延長のほか、被用者保険適用に伴う保険料負担軽減のための手当(社会保険適用促進手当)として、支給する場合も対象となります。

② 社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外

事業主が支給した社会保険適用促進手当については、適用に当たっての労使双方の保険料負担を軽減するため、新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として被保険者の標準報酬の算定において考慮されません。

4.130万円の壁への対応

被扶養者認定基準(年収 130 万円)について、労働時間の延長等に伴う一時的な収入変動による被扶養者認定の判断に際し、事業主の証明書の添付による迅速な判断を可能とします。

5.配偶者手当への対応

① 中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等、わかりやすい資料を作成・公表される予定です。
② 配偶者手当が就業調整の一因となっていること、配偶者手当を支給している企業が減少の傾向にあること等を各地域で開催するセミナーで説明するとともに、中小企業団体等を通じて周知される予定です。

まとめ

現在、多くの企業が人手不足を感じています。特に、コロナ禍前の水準に近い状況となっており、企業の成長や存続にとって、人手不足への対応は避けて通れない課題となっています。労働者が希望する形で働ける環境を整えることは、人手不足の解消にも寄与します。経営者として、労働者のニーズを理解し、柔軟に対応することが求められます。

今まで紹介した「年収の壁・支援強化パッケージ」には、賃上げや労働環境の整備を促進するための施策が含まれており、経営者として活用することで、企業の成長を後押しすることができます。このパッケージを活用し、企業の成長と労働者の満足度向上の両立を目指すことが、持続的な経営の鍵となります。


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投稿者プロフィール

石田厳志
石田厳志
木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。